旭硝子(株)(本社：東京、社長：石津進也)は今般、Grow施策の一環として取り組んできた新規事業プロジェクトの一つである酵母利用蛋白質生産事業に本格的に参入することを決定し、４月１日付けで当該技術名を冠した「ＡＳＰＥＸ事業推進部」を設置することとしました。

　ＡＳＰＥＸ（アスペックス：Asahi Glass Schizosaccharomyces pombe Expression System）は、ファインケミカルズ分野における次世代技術として当社中央研究所にて開発してきました酵母を利用した蛋白質の生産技術です。平成９年から新規事業プロジェクトチームで欧米を中心に行ってきたマーケティング活動により、医薬品原料・産業用酵素の製造用として欧米の製薬・化学品メーカー等から高い評価を受け、事業性についての見通しが得られたことから、今般、「ＡＳＰＥＸ事業推進部」を新設し、医薬･化学･食品メーカーを始めとした顧客を対象に蛋白質を提供する蛋白質生産事業に本格的に参入することにしたものです。

　ＡＳＰＥＸ事業推進部における具体的な活動は、医薬品・酵素・診断薬分野などに必須の素材である「蛋白質」を効率良く提供することです。
　具体的には、ＡＳＰＥＸを中核技術として、顧客の様々なニーズにフレキシブルに応え、顧客の必要とする蛋白質を提供するために生産プロセス開発から量産までを一貫してサポートします。既に神奈川県横浜市に、ＧＭＰに対応しうる設備として医薬品原料用蛋白質の製造が可能な設備を完成させており、本年春から蛋白質製造を開始します。

　当社では、蛋白質生産技術開発にあたり、ユニークな性質を持つポンベ酵母を宿主として選択しました。ポンベ酵母は微生物の特性を持つため、取り扱いが容易であり、かつ高等生物由来の複雑な構造を持った蛋白質をも製造することができる優れた宿主です。一方、高い生産効率で安定的に蛋白質を生産するための独自ベクターを開発することに成功し、他の蛋白質生産技術に比しても高い優位性を達成しました。更に、ポンベ酵母の培養技術の開発などにより、各種蛋白質の工業生産に適した方法としてＡＳＰＥＸの技術を確立しました。

　バイオテクノロジーは、２１世紀の新しいビジネス分野として期待されており、ここ数年来のゲノム計画の進展から、現在とりわけ大きな注目を浴びています。蛋白質は細胞内でつくられる生体の主要成分で、生物が生きていく上で必要不可欠な物質ですが、遺伝子組換え技術の登場により人工的な合成が可能となり、最近は医薬品のみならずエレクトロニクス等様々な分野にまで、応用されつつあります。さらに、ゲノム解析によって、数多くの遺伝子ＤＮＡ情報が得られ、生理機能を発揮する蛋白質が数多く見出されるものと予想されます。それらの新規蛋白質を効率よく製造するシステムとして、 ＡＳＰＥＸの重要性は今後一層増大するものと期待しています。
　蛋白質受託製造の市場は現在年率２０％程度で成長しており、２００５年には２,０００億円程度の市場に拡大すると期待されています。ＡＳＰＥＸ事業推進部では、蛋白質の受託製造を中心に当面の売上げを１０億円を超える規模と想定していますが、今後とも積極的な事業拡大を図ることで、本事業分野での世界トップ企業になることを目指しています。

以　　上

＜ご参考＞ −語句解説−

1. ＧＭＰ

   　Good Manufacturing Practiceの略称。品質の良い優れた医薬品を製造するための要件をまとめた規準。ＷＨＯが１９６９年にＧＭＰの採用を勧告して以来、医薬品製造に関する必須要件として世界各国において定着している。
   

2. ポンベ酵母

   　分裂酵母シゾサッカロマイセス・ポンベのこと。ポンベ酒とよばれる東アフリカのトウモロコシ・ビールから単離されたものを起源としている。遺伝的解析がよく進んだ酵母であり、分裂の様子等が高等生物と類似していることから、古くから細胞分裂のモデルとして多くの研究に用いられてきた。

3. 宿主、ベクター

   　宿主とは、遺伝子を導入される生物（あるいは細胞）のこと。大腸菌や枯草菌、酵母、動物細胞などが対象となる。
   　ベクターとは、目的の遺伝子を宿主に導入するために必要な運搬体ＤＮＡ分子のこと。宿主に適合したベクターを用いる必要がある。

4. ゲノム計画

   　遺伝子の全構造を明らかにしようとするプロジェクトで、ヒト、酵母、イネ等の遺伝子配列解析が米国を中心に世界的規模で進められている。国際的に協調して進められる一方、21世紀の情報産業として、米国ベンチャーを中心とした激しい解析競争が行われている。 既にヒトゲノム構造の90%の解析が終了したとの報告もあり、2003年迄に全構造が明らかになる見通しである。