1998年09月10日製品リリース

優れた特性を持つ光スイッチ用ガラスを開発

 旭硝子株式会社(本社:東京、社長:石津進也)は、名古屋大学と共同で、光スイッチを実現するために必須の三つの特性-高効率、低吸収、高速性-を併せもつ光スイッチ用ガラスを開発しました。

 旭硝子は名古屋大学理工科学総合研究センターの中村新男教授と共同で、光コンピュータ実現のためのキーデバイスといわれている光スイッチ用素材の開発を目指し、優れた三次非線形光学効果を持つ材料の開発を進めてきました。
 三次非線形光学効果とは、光の強さの三乗に比例する非線形光学効果のことで、たとえば光の強度によって材料の屈折率が変化するなどの効果があげられます。この効果を利用すると、完全に光だけで動作する超高速のスイッチングやメモリー等の機能を持つ光論理素子の実現が可能です。

 光スイッチを実現するためには、高効率(三次非線形光学効果が大きい)、低吸収(素子中での光の損失が小さい)、超高速(応答速度が速い)の三つの性能をクリアする必要があり、それを目指して、種々の材料開発が行われています。
 当社でも、ガラスに超微粒子を分散させた材料で開発を進め、上記3つの性質のうち高効率をクリアした素材を開発してきましたが、低吸収、超高速の特性をクリアすることが課題でした。

 今般、所定の熱処理を行なった、直径が約10nm(ナノメートル:ナノは十億分の一)のCuCl(塩化第一銅)微粒子が均一に分散したガラスを用いた光スイッチの応答時間が、光スイッチの目標値である1ピコ(ピコは一兆分の一)秒以下の超高速で作動することを見出しました。旭硝子と名古屋大学では、すでにこの系の材料は光の吸収損失が小さく、かつ高効率スイッチ駆動が可能であることを見出していましたが、応答時間が30ピコ秒程度であったためさらなる高速化を目指していました。今回、このガラスを300℃程度の温度から急冷することによって応答時間が1ピコ秒以下に短縮することを見出し、実際に超高速光スイッチ動作を確認しました。この高速化の理由は、特定の温度域から急冷することによって高温状態のCuClの結晶構造を凍結することが可能になり、そのため、微粒子中で光励起された電子が高速に緩和するようになったと考えています。
 一般的に、応答時間とスイッチ効率はトレードオフの関係にあり、両立は困難でしたが、今回見出した光スイッチガラスは、スイッチ効率をほとんど変えずに応答時間の短縮化を図ることが可能であり、高効率特性、低吸収特性及び超高速応答特性をあわせもつ画期的な材料です。

 上記3つの特性の目標値を達成したことにより(具体的な数値は、<ご参考>部分を参照願います)、光スイッチ実現のための材料開発の第一ステップはクリアしたと考えています。
 今後は、光通信網の大容量化をもたらす超高速光交換機や高速処理を実現する光コンピュータ実現のために、耐光損傷性や長期耐久性などの実用特性を見極めていく計画です。

 この研究開発は産業科学技術研究開発制度の一環として、当社が、平成元年度から10年度までの予定で、(財)化学技術戦略推進機構を通じ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託を受けて実施しているものです。
 なお、この成果については、9月15日から広島大学で開催される応用物理学会で報告する予定です。

以 上

<ご参考>

光コンピュータ
 現在の、電子計算機の電子回路による演算を光による演算に置き換えた計算機。光のもつ超高速性、並列性を利用しすることによって、処理速度が従来の電子回路による計算機の1000倍程度と格段に向上するといわれている。
 光コンピュータの実現には、光論理素子、光スイッチ素子の開発が必要。

光論理素子
 AND、NAND(not AND)、OR、NOR(not OR)などの論理演算を、光の入出力状態の変化によって実行できる素子。

非線形光学効果
 非線形とは、加えた外力とそれによる結果との間に一次的な比例関係が成り立たないことをいう。強い光と相互作用する物質には、光の強さと比例しない非線形応答が生じる。誘電率の大きな物質ほどこのような現象を起こしやすく、特に効果の大きい物質を総称して非線形光学材料と呼ぶ。
 非線形光学効果として、光の強さの二乗に比例する二次非線形光学効果には、二次高調波発生などがある。これに対して、三乗に比例する三次非線形光学効果では、たとえば光の強度によって材料の屈折率等が変化するなどの効果がある。
 非線形光学材料としては、光の波長を変換する材料や電圧により光の位相を変える電気光学材料として一部実用化されているが、これらはすべて二次非線形光学効果を利用している。
 一方、三次非線形光学効果の超高速性および多様性を生かした光スイッチング素子や光メモリー素子等の提案が活発に行われてる。この材料の開発は、米国を中心に世界的に非常に活発に進められており、国内でも通産省産業科学技術研究開発制度が平成元年度より発足し、精力的に進められている。
 現在、材料開発は超格子材料、有機系材料および超微粒子分散材料の3種を中心として進められており、今回の開発は超微粒子分散材料におけるものである。

esu:静電単位、electro static unit(電磁気の単位系の一つ)

集積化可能な光スイッチを実現するために必要な、三つの特性(高効率、低吸収、高速性)に対する性能値
高効率−三次非線形感受率:χ(3)(カイ3)  χ(3)>10-7esu
χ(3)が大きいほど、低いパワーの制御光でスイッチ可能になるし、同じパワーであれば、素子のサイズを小さくすることが可能になる。
低吸収−吸収係数:α(アルファ)  α<100cm-1
αが小さいほど素子中での光の損失が小さくなる。
高速性−応答時間:τ(タウ)    τ<1ps
τは、光スイッチの応答速度を決める因子であり、毎秒数百ギガ(ギガは十億)〜1テラ(テラは1兆)ビットの光信号を処理するためには、1ピコ秒以下の時間が必要になる。

   本材料では、χ(3)=3×10-7esu、α=54cm-1、τ<1psを達成した。

微粒子中で光励起された電子が高速に緩和する
光の照射によって、微粒子中の電子は光を吸収して高いエネルギー状態に励起される。
励起された電子は、光の照射が止まると、もとの低いエネルギー状態に戻る。
この、もとの状態に戻るまでの時間が緩和時間(応答速度)に相当する。
低いエネルギー状態に戻る時に、上昇分のエネルギーを、発光、格子振動、熱など通じて放出する。この緩和過程が結晶構造に強く依存するため、結晶の状態(構造)を変えることによって電子を高速に緩和させることが可能になる。

光スイッチ概念図